世界初、酸化ガリウムエピ膜を用いたトレンチMOS型パワートランジスタの開発に成功
−従来のシリコンMOSFETの損失を1/1,000に−

2017/11/28 株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
株式会社タムラ製作所



図1 酸化ガリウムトレンチMOS型パワートランジスタの模式図  


株式会社ノベルクリスタルテクノロジー(所在地:埼玉県狭山市、代表取締役社長:倉又朗人)は、株式会社タムラ製作所と共同で酸化ガリウムホモエピタキシャル膜※1を用いたトレンチMOS型パワートランジスタ※2の動作実証に世界で初めて成功しました。このデバイスが実用化されれば、これまでシリコン(Si)が用いられてきた家電製品から大電力の産業機器まで、様々な電気機器の大きな省エネルギー効果が期待できます。



【内容】

ダイオード※3やトランジスタなどの半導体パワーデバイス(以下、パワーデバイスと表記)は、携帯電話の充電器から始まり、自動車、電車、ロケットと、世界中のあらゆる電気機器に組み込まれ、電圧や電流の制御を行っている部品です。その制御を行う時にパワーデバイスの中を電流が流れますが、パワーデバイスの電気抵抗が大きいと、そこで大きな電気エネルギーが失われてしまいます。そこで、パワーデバイスの低抵抗化(低損失化)を目指し、従来用いられてきたSiから、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの、より低損失デバイスを作ることができる新材料の開発が進められています。

酸化ガリウムは、4.5 eV※4という非常に大きなバンドギャップエネルギー※5を有し、SiCやGaNよりも低損失なパワーデバイスの実現が可能な夢の新材料です。さらに、酸化ガリウムはSiCやGaNには不可能な融液成長法※6による単結晶育成が可能なため、高品質で大型の単結晶基板を、SiCやGaNの1/100の時間で低コストに製造することができます。よって、酸化ガリウムパワーデバイスが実用化されれば、Siと同等のコストで、Siデバイスよりも損失を1/1,000に低減することが可能です。これらの特徴から、酸化ガリウムパワーデバイスの早期実用化に向けて、国内外の企業および研究機関が研究開発を加速しています。

これまで両社では、酸化ガリウム単結晶基板およびホモエピタキシャル膜を開発してきました。 1, 2) また、それらを用いて超低損失トレンチMOS型※7ショットキーバリアダイオードの開発に成功していました。3) しかしながら、ダイオードだけでは応用先が限定されるため、酸化ガリウムパワーデバイスの本格普及の妨げになっていました。今回、トレンチMOS型ショットキーバリアダイオード開発で培った技術を転用することで、トレンチMOS型パワートランジスタを世界に先駆けて開発することに成功しました(図1、2)。試作したデバイスは、原始的な構造ながら3.7 mΩcm2という低損失動作しており [図3(a)]、今後のデバイス構造や製造プロセスの改良により、0.5 mΩcm2未満まで損失低減が可能です。オンオフ比が3桁程度とやや小さいのは[図3(b)]、ゲート/ソース間の絶縁性能の低さが原因であり、絶縁膜の形成方法の変更により改善できると考えられます。また、本デバイスはノーマリーオン動作していますが、チャネル幅を狭くすることで容易にノーマリーオフ動作させることができます。本成果により酸化ガリウムダイオードとトランジスタが揃ったことで、パワーデバイスの応用先として最も市場の大きなインバータ※8の作製が可能となり、酸化ガリウムパワーデバイスの本格普及に大きく前進しました。なお、この成果は2017年11月22日に応用物理学会誌Applied physics expressにてオンライン掲載されました。


 


図2 酸化ガリウムトレンチMOS型トランジスタの(a)断面模式図と(b)断面電子顕微鏡像





図3 酸化ガリウムトレンチMOS型トランジスタの(a)DC特性と(b)トランスファー特性




【今後の展開】
今後、開発したデバイスの更なる低損失化と高耐圧化、ノーマリーオフ化を進めていきます。パートナーとなる企業と連携する形で2022年頃の製品化を目指します。トランジスタが製品化されれば、酸化ガリウムパワーデバイスの市場規模は2025年で700億円、2030年で2,000億円へと拡大していくものと思われます。



【用語解説】

※1 ホモエピタキシャル膜
基板結晶の上に、基板と同じ物質を結晶成長させて得られる結晶膜。

※2 トランジスタ
増幅、またはスイッチ動作をさせる半導体素子。

※3 ダイオード
電流を一定方向にしか流さない作用を持つ電子素子。

※4 eV (エレクトロンボルト)
自由空間内で一つの電子が1 Vの電圧で加速されるときのエネルギーを1 eVと表記する。

※5 バンドギャップエネルギー
固体内電子の、伝導帯の最も低いエネルギーレベルと価電子帯の最も高いエネルギーレベルの間で、電子が存在できないエネルギー状態。

※6 融液成長法
結晶化させたい材料をるつぼの中で融点以上に加熱して融解させた後、種結晶を接触させてゆっくり温度を下げることで単結晶を得る方法。チョクラルスキ法やフローティングゾーン法、Edge-defined film-fed growth法などが有名。

※7 トレンチMOS型
半導体表面に形成された溝構造の側面と底面に、酸化物絶縁膜と金属電極を設けた構造体。

※8 インバータ
直流または交流から、周波数の異なる交流を発生させる電源回路。



【参考文献】

1) A. Kuramata, K. Koshi, S. Watanabe, Y. Yamaoka, T. Masui, and S. Yamakoshi, Jpn. J. Appl. Phys. 55, 1202A2 (2016). 

2) Q. T. Thieu, D. Wakimoto, Y. Koishikawa, K. Sasaki, K. Goto, K. Konishi, H. Murakami, A. Kuramata, Y. Kumagai, and Shigenobu Yamakoshi, Jpn. J. Appl. Phys. 56, 110310 (2017).

3) K. Sasaki, D. Wakimoto, Q. T. Thieu, Y. Koishikawa, A. Kuramata, M. Higashiwaki, and S. Yamakoshi, IEEE Electron Device Lett. 38, 783 (2017). 





【お問い合わせ先】

株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
 《研究内容》営業部                             TEL:04-2900-0072
 《報道関係》上記に同じ

株式会社タムラ製作所 
 《研究内容》コアテクノロジー本部セミコン開発室 TEL:04-2900-0045
 《報道関係》経営管理本部 経営支援グループ      TEL:03-3978-2013

注: ノベルクリスタルテクノロジーは、タムラ製作所のカーブアウトベンチャーであり、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の技術移転ベンチャーとしての認定会社です。


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