2022年度は、原燃料価格の高騰や為替の変動、インフレーションの進行、米中のデカップリング、サプライチェーン分断による部品調達難など不安定な状況が続きましたが、世界経済は概ね回復基調で推移しました。
エレクトロニクス市場では、半導体不足による自動車の減産や、巣ごもり需要の反動によるスマートフォンやPCなどの減産の影響を受ける一方、エアコンなどの家電やロボットなどの産業機械は底堅い需要が継続しました。当社では、原材料調達難により増加した受注残に対応し、電子部品関係の売上が伸びたほか、販売価格改定の推進に加えて円安効果もあり、業績は伸長しました。
その結果、当社グループの2022年度の連結売上高は1,079億9,300万円(前期比22.3%増)と過去最高を記録しました。また、営業利益は48億2,900万円(同208.6%増)、当期純利益は20億4,700万円(前期純損失8,400万円)と黒字転換を果たしました。
2023年度も世界経済はインフレーションの進行などで成長の鈍化が懸念されます。また、米中デカップリングの影響で、欧米メーカーによる中国からの撤退圧力が強まり、当社も生産拠点の分散化の検討を迫られるなど先行き不透明な状況が予測されています。
当社グループは「2050 ありたい姿」として「世界のエレクトロニクス市場に高く評価される脱炭素社会実現のリーディングカンパニー」を掲げています。
その実現の鍵となるのはパワーエレクトロニクス、モビリティ、IoTといったカーボンニュートラルに貢献する領域での事業成長です。成長と効率の二本柱からなる「事業戦略」と「サステナビリティ戦略」を両立しながら、3年ごとの中期経営計画の成果を積み上げていくことで、「2050ありたい姿」の実現を目指します。
ただし、従来の製品群だけでは、このビジョンを実現することは不可能です。そのためには、世の中をリードする新技術を、2030年頃までに確立し、事業の新たな柱として育てていくことが必要です。
そのメインとなるターゲットの一つが、次世代パワー半導体です。当社では、関連する材料や部品・製品等の開発に取り組んでおり、新事業として展開することで2050年に向けて飛躍を図ります。
まさにそのスタート地点に立っている現在は、当社の歴史において、非常に重要な転換点にあると言えます。
第13次中期経営計画2年目の見通し
第13次中期経営計画では、「Energize the Future 100」をスローガンとして掲げ取り組んでいます。この言葉には創業100周年およびその先の「2050 ありたい姿」実現に向けた第一歩として、パワーアップしたタムラグループに進化するとともに、力強く素晴らしい未来を社会のためにつくっていきたいという決意が込められています。
中期経営計画1年目の2022年度は、円安の後押しなどもあり、これまで達成できなかった売上高1,000億円を超えました。
2年目にあたる2023年度は、電子部品事業については、受注残がまだ残る一方で顧客の在庫調整も増えて需要が低迷しています。また、半導体の需給逼迫は、半導体を駆動させるユニット製品の生産にも影響を与えています。上半期はこうした状況が続きますが、下半期以降は回復に向かうと想定しており、その需要の変化をいち早くつかみ、生産体制を整えて対応することが重要となります。
電子化学実装事業は、スマートフォン関連市場の低迷や中国市場の需要低調等によって厳しい立ち上がりとなっていますが、徐々に需要回復することが見込まれます。課題は高付加価値の新製品開発強化で、現在、次世代半導体向けのソルダーペーストの開発に取り組んでいます。次期中期経営計画の期間中における上市を目指しており、実現すれば当社の電子化学実装事業は、次のステージへと進化することになります。
情報機器事業に関しては、このほど新製品の次世代音声調整卓「NTXシリーズ」を市場に投入しました。フルIPの音声調整卓は日本メーカーでは当社が唯一であり、放送局等を中心に販売の拡大を期待しています。
当社グループでは、第13次中期経営計画の最終年度であり、創業100年にあたる2024年度の業績目標達成を目指して、2023年度も各種施策に取り組んでいきます。
タムラグループ従業員に求められる人材像
タムラグループの従業員の強みは、これまで100年間にわたって培ってきた技術と目標達成まで諦めない気質にあります。しかしその一方で、周囲の環境の変化を敏感に察知して、自分から進んで変わっていくことにはやや弱く、上司や先輩からの指示待ちの傾向が見られます。
そこで“上意下達”だけでなく、逆方向の“下意上達”によるコミュニケーションを積極的に増やすよう、私自身が従業員と直接対話するタウンホールミーティングをはじめ様々な機会を捉えて、リーダーやマネージャークラスを中心に意識改革をお願いしています。
また、従業員全員が“変化を恐れずに自分からチャレンジする”ようになり、まず自分のチームを変え、そして会社全体を変えていくことを期待しています。経験者採用も積極的に行い、外部での経験を積んだ能力ある人材によって組織を活性化することで、社内の風土改革を進めます。
人材の多様性確保については、女性管理職比率、外国人管理職比率、中途採用管理職比率の向上に取り組んでいます。女性管理職に関しては、ベースとなる女性社員の割合を増やすとともに、女性活躍推進の流れの中で管理職への登用を図り、2024年度末までの女性管理職比率10%の目標達成を目指します。また女性の社外取締役も増員しています。外国人管理職比率についても、執行役員に外国人2名が就任しており、管理職への登用も積極的に進めていきます。
さらに、私自身が主導している働きがい改革においても、人が憧れる会社、人が集まる会社を目指して、従業員エンゲージメント向上の取り組みを推進していきます。特に、働きがいの土壌となる「心理的安定性」を浸透させるための各種施策に引き続き注力します。また、国内に続いて、今回初めてグローバルでの従業員エンゲージメント調査を実施するなど、海外も含めたタムラグループ全拠点でエンゲージメント向上の取り組みを進めます。
働きがい改革実現のために、社長として従業員に期待するポイントが三つあります。一つ目が「双方向」で、年齢や立場を超えて、お互いの意見や時代感覚を理解することで変化に強い組織をつくります。二つ目は「健全な野心」で、新しいものに挑戦する意欲を持ち、重要だと信じることややってみたいことを、時には上司と意見がぶつかってでもやり通す、そんな気概を持ってほしいと考えています。三つ目は「高みを目指す」ことです。努力と勉強を日々積み重ねることで、自分自身も変化していきます。これら三つを常に意識することで、多様な人材が働きがいを持てるようになり、会社の新しい未来を切り開く大きな力になると考えています。
ガバナンス体制の充実・強化に向けて
コーポレートガバナンスの基本的な方針については、株主の皆様から経営の付託を受け、高い企業倫理観に基づくコンプライアンス経営を実現するため、経営の効率性と透明性を重視し、株主の視線に立って企業価値を最大化することと考えています。特にリスクマネジメントと内部統制を重要視しており、全社的・体系的なリスクマネジメント体制を整備するべく、現在リスクアセスメントを進めているところです。
2023年6月、当社は監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行しました。取締役会で議決権を有する取締役が監査等委員になることで、取締役会の監督機能の強化を図り、一層透明性の高いコーポレートガバナンスを目指すためです。当社はこれまでも常に先進的な取り組みを進めてきましたが、ちょうど創立100周年を目前に控えたタイミングで、ガバナンス体制を強化することにしました。
CXO制も導入しました。これまで当社は各事業を縦串にした体制でしたので、「Oneタムラ」戦略を打ち出すことで横串での事業推進を強化してきました。CXO制はそれをさらに発展させる形で、会社が一体となって激しい時代の変化に機動的に対応していくことを目的としています。
執行部門のトップである執行役員会と取締役会がきちんと相対し、執行と監督が相互に高めあっていける充実したガバナンス体制を構築していきたいと考えています。
2023年度の業績予想とサステナビリティ強化
2023年度のエレクトロニクス市場は、景況悪化による一時的な減速はあるものの、電動化の進む自動車関連、産業機械関連の自動化、クリーンエネルギー・省エネルギー関連のニーズの高まりによる、手堅い需要が継続すると想定しています。しかしながら、同年度の連結業績予想は、売上高が1,080億円、営業利益46億円で、当初中期経営計画に掲げた2年目の目標値を下回っています。
この厳しい状況に対して、グループ全体で売上向上と収益改善に取り組み、計画の最終年かつ創業100年にあたる2024年度における目標達成を目指しています。
サステナビリティ戦略については、前述したリスクマネジメントの見直しを含め、第13次中期経営計画で定義したマテリアリティを軸に施策を展開しています。また、当社グループの企業理念であるタムラグループミッションを実行するための基礎となる「タムラグループ行動規範」を見直しました。「行動規範」は2007年に制定されたものですが、この度、時代の変化に合わせて国際基準に沿った内容に改定したもので、グループ従業員全員に対してその浸透を図っていきます。
環境については、サステナビリティ貢献製品のさらなる拡充に努めるとともに、温室効果ガス削減に取り組み、国内事業所の再生可能エネルギー使用率100%を達成しました。当社は、2022年6月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明し、「気候変動が企業経営にとってリスクや機会になりうる」という認識の下、TCFD提言に基づく情報を開示しています。
企業価値向上による社会貢献を目指して
当社グループは「2050 ありたい姿」を最終目標に掲げ、創業100周年の2024年、SDGsの目標年である2030年をマイルストーンとして、3年単位の中期経営計画を積み重ねることで目標達成を目指しています。
なお、当社は2024年の1月から2025年12月までの2年間を「100周年イヤー」と位置づけ、社史の編纂やお客様向けの展示会など、ステークホルダーの皆様からの長年にわたるご支援に感謝の意を表す様々な企画を考えています。
これからも当社グループは、100周年のさらにその先の未来に向けて、自社の企業価値向上のみならず、社会全体の価値向上を高める取り組みを推進し、グローバル社会に貢献していきます。ステークホルダーの皆様には、引き続き変わらぬご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。