トップメッセージ

創業100周年はこれからの未来に向けたマイルストーンのひとつであり、今後も次世代技術・製品開発に一層邁進します。

創業100周年を迎えたタムラグループでは、長期ビジョン「2050ありたい姿」に向けて、第13次中期経営計画に取り組んでいます。さらに来年度からの次期中期経営計画では、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、次世代技術や製品の開発に積極的に挑戦することで、環境問題をはじめ各種社会課題の解決を目指します。




創業100周年を迎えて

2024年5月11日、タムラ製作所は創業100周年を迎えました。ラジオ本放送開始の1年前、いち早く受信機の製造・販売を開始した当社は、トランスなど磁性部品を主体とする部品専業メーカーとなり、その後日本のエレクトロニクス産業の発展とともに、電子部品事業に加え電子化学実装事業、情報機器事業へと事業領域を拡大してきました。その間、戦争をはじめとする世界情勢の変化や、予測不可能な国内外の景気変動など、厳しい事業環境を乗り越えて現在まで企業活動を継続・発展してこられたのは、お取引先や株主をはじめとするステークホルダーの皆様による長年にわたるご支援と、諸先輩方や従業員のたゆみない努力の結果であり、心よりお礼申し上げます。

ただし100周年というのは、当社の歴史におけるマイルストーンの一つにしか過ぎないとも言えます。私自身は、創業家から3代続いた社長からバトンを受け継いだ、初の創業家以外の4代目社長であり、さらに次の100年を見据えて会社を伸ばしてもらいたいという想いを託されたものと考えています。従業員も含めてわれわれ後に残された者たちがその想いを引き継ぎ、一丸となってさらなる未来の発展に向けて邁進すべく、決意を新たにしているところです。



第13次中期経営計画2年目の業績

第13次中期経営計画2年目にあたる2023年度は、地政学的リスクの高まりによる不透明感が継続し中国や欧州では景気停滞の影響を受けました。特に夏以降、中国市場が大きく減速し、当社グループでは一時大幅な業績低下が予想されました。

しかし実際には、北米市場が底堅く推移したこと、2022年度より素材の価格高騰や為替変動対策として、電子部品関連および電子化学関連では相場連動による販売価格改定が浸透してきたこと、前期の為替差損に対し今期は為替差益が計上されたこと、さらに円安の進行も追い風となり、懸念された業績の大きな落ち込みは回避できました。

セグメント別の業績については、電子部品事業は、夏以降の中国市場減速の影響を大きく受けましたが、半導体不足の緩和による車載向け昇圧リアクタや、LED製品の売上大幅増により、全体として堅調に推移しました。電子化学実装事業では、実装装置事業において10月頃からは中国のみならず日本でも設備投資が抑制され、需要が激減したものの、電子化学事業も含めた全体では、円安の寄与により大幅な売上減少には至りませんでした。情報機器事業は、2023年に上市し、放送システムのIP化に対応した次世代音声調整卓「NTXシリーズ」が、放送局の建て替え・設備更新に伴う大型受注を獲得し、売上・利益ともに大きく伸長しました。

その結果、当社グループの2023年度の連結売上高は、1,066億2,200万円(前期比1.3%減)とわずかに減少しました。また、営業利益は49億4,000万円(同2.3%増)、経常利益は49億5,600万円(同14.5%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は22億4,000万円(同9.4%増)といずれも増加しました。

第13次中期経営計画の最終年度である2024年度の業績見通しについては、エレクトロニクス市場の回復により、特に下期における売上・利益拡大を見込んでおり、売上高1,120億円、営業利益52億円、当期純利益34億円と予想しています。

中期経営計画の策定当初は、営業利益の目標値を50億円以上(2023年度)、60億円以上(2024年度)に設定していました。しかし、その後主要顧客の在庫調整や中国市場の需要低迷など、事業環境の悪化を考慮し、2年目以降の目標値を下方修正しました。ところが、2023年度はその修正目標を超える結果となりました。現在も市場環境が回復傾向にあることから、2024年度は当初目標の60億円到達は難しいと思いますが、今期予想の52億円を上回る結果を出せるよう、全員で頑張って記念すべき100周年の業績向上を目指したいと思っています。



新執行体制への移行と目的

当社は2023年6月、監査等委員会設置会社への移行と同時にCXO制を導入し、CEO、CFO、CTOを置きました。さらに2024年6月にはCSO、CHRO、CLOを新たに任命いたしました*。

これまで当社は、電子部品事業、電子化学実装事業など一つの分野を専門とするトップが各事業部門の責任者となり、その縦串を創業家の社長・会長が束ねてきました。しかし創業家出身ではない私の社長就任を機に、社長だけではなく経営層全体で、より強力に横串を通して全社を見られるよう、「Oneタムラ」戦略を推進してきました。

執行役員を軸にしたCXO制の導入は、それをさらに強化・発展させ、チームによる企業運営を行うことで激しい時代の変化に対応することが目的です。専門分野を持った一人ひとりの英知を結集して執行することで各自の能力アップを図るとともに、経営層の世代交代も目指しています。そのために、7月に役員制度も改定し、経営層に求められる人材像を明確化しました。人材登用の透明性を確保することで、次世代への経営の引き継ぎを図っていきます。

世の中の変化スピードはどんどん早まっています。この会社が生き残っていくためには、今後20年、30年働く人たちが一刻も早く自分ごととして考えていかないといけません。新CSOには電子化学事業、電子部品事業の営業畑での経験を生かし、次期中期経営計画の策定に向けた戦略立案と実行に期待しています。

また、企業の社会的責任として、経営戦略や人事関係、サステナビリティ、各種法規制等へのより的確な対応が求められるようになっています。CHRO、CLOの設置で本社機能の強化と体制の充実も図ります。

一方、研究開発面では、早くも横串の効果が出始めています。現在、次世代半導体に適した磁性受動部品の開発に取り組んでいますが、電子化学だけ、電子部品だけの知識やノウハウでは実現は困難です。CTOが全体を見ることで、電子化学事業の素材の能力やノウハウと、電子部品事業が長年培ってきた知識、設計・開発の考え方などを融合させた、高電圧・高耐圧に対応できる新しい電子部品の開発を進めています。

*: CEO=最高経営責任者、CFO=最高財務責任者、CTO=最高技術責任者、CSO=最高戦略責任者、CHRO=最高人事責任者、CLO=最高法務責任者



サステナビリティの取り組みと「働きがい改革」の推進

当社はサステナビリティ戦略として8つのマテリアリティに基づき、KPIと目標を設定し取り組んでいます。2023年度の状況については、これらのうち「製品品質の向上」、および「働きがいの実現」における外国人管理職比率が、2024年度の最終目標に対してビハインドではあるものの、他の6項目については、目標達成に向けて確実に進捗しています。

現在、次期中期経営計画に向けて、様々な人の意見を取り入れながら、次の段階にアップデートしたマテリアリティの見直しに着手しているところです。

私は社長就任当初より「三位一体改革」として、「事業戦略の策定」「業務改革」「働きがい改革」に取り組んでおり、それらの取り組みの核となるDX推進に注力する方針を掲げています。「業務改革」のためのツールである経理系の基幹システム更新はすでに終了しました。事業系の基幹システム導入は精査中ですが、費用対効果を含め、慎重に検討を進めています。

一方、「働きがい改革」については、これまで一貫して私自身の主導で取り組んできました。単なる働きやすさを求める「働き方改革」ではなく、従業員にとって働くことが楽しく、会社に来てハッピーになれる「働きがい」を持ってもらいたい。そのために、上下の隔てなく意見を言えるような「心理的安 全性」の浸透など、安心して働ける風土づくりに注力してきました。また、その成果を見極め、次の手を打つために、海外拠点も含めて従業員エンゲージメント調査を実施しています。

今後、ますます仕事に対する個人の価値観が多様化し、各自が求める「働きがい」も違ってきます。意見を出し合って、なるべく多くの従業員が共感、納得して「働きがい」を感じられる会社になれるよう、これからも力を尽くしていきます。



次期中期経営計画の方針と次世代製品開発の取り組み

現在、当社では新CSOが中心となり第14次中期経営計画の策定に向けて準備を進めています。これは、従来よりも半年以上早い取り掛かりです。プライム市場の上場企業としての社会的責任やステークホルダーの皆様の期待にどう応えるかなど、様々な視点も加味した目標を設定し、さらに世代交代も意識して次の100年を見据えた開発方針等を盛り込むなど、時間をかけて計画を策定する必要があるためです。

現時点における概略方針としては、中国で生産体制の再編・見直しを検討する一方で、欧州と米国での拡大戦略を推進します。特に米国におけるデータセンター市場拡大に伴い、サーバー機器向けUPS(無停電電源装置)・PDU(電源分配ユニット)に使用する当社の大型トランス/リアクタの需要が急増中です。そのため2024年3月にメキシコ工場の生産能力を増強し、さらに第2工場の建設も予定しています。また、将来的にはインドや南米などでの市場開拓も構想しています。

中長期的な製品開発の方向性としては、温室効果ガス削減およびカーボンニュートラル市場を牽引する、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)の次世代パワー半導体用のデバイスに加え、当社が関与しているβ酸化ガリウム(β-Ga2O3)の研究開発が将来進めば、そこにも商機を求めていきたいと考えています。

ゲートドライバモジュールや電流センサについては、すでに国内外のパワー半導体メーカーと協業・共創して製品開発を行い、欧州などでの拡販を目指しています。

トランスやリアクタについては、当社の開発戦略推進室と東北大学の産学連携で、従来と全く異なる素材を利用した新しい磁性受動部品の開発を進めています。2024年4月には東北大学内に「仙台アドバンスドラボ」を開設し、研究開発体制を強化しました。

さらに、次世代半導体や、ロジック半導体のチップレット化工法に対応する接合材の開発等も含め、次の100年を支える技術基盤の確立と、新たな事業の柱の創出に向けて挑戦を続けています。



さらに次の100年に向けて

当社では、2024年から2025年までの2年間を「100周年イヤー」とし、100周年記念サイトの開設や、社史の編纂、お客様向けの展示会など様々な企画を行い、ステークホルダーの皆様や従業員に向けて感謝の意を伝えていきます。

ただ、冒頭でも述べたように100周年は、当社にとっての通過点に過ぎません。時代の変化に対応し、自ら進化を続けていける会社にならないと、次の100年の世界を生き抜いていけません。

ステークホルダーの皆様には、ぜひ当社の新たな時代に向けたチャレンジを見守っていただくとともに、今後とも引き続き変わらぬご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。




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